新型コロナの影響でレース史上初となる無観客試合を実施
毎年、春と秋に開催されている草レース“テイスト・オブ・ツクバ”。その華やかな存在感から日本最大の草レースともいわれているが、全国から腕自慢の猛者や実力派カスタムショップが集い、かつての全日本ロードレース選手権に匹敵するようなコースレコードすら実現させている高いレベルのレースとしても知られる。しかもそのマシンはファクトリーマシンなどではなく、我々が普段から接している市販車、それも鉄フレーム車がベース。
テイスト・オブ・ツクバが注目されるようになったゆえんは、もともと1970〜80年代生まれの鉄フレーム車という、カスタムシーンでもっとも注目されていたカテゴリーのマシンで競われている点だ。具体的には空冷Z系やGPZ900R、GSX1100Sカタナ、CB750F、FZ750といったマシンが主要メンバー。こそういったマシンをいわゆる普通のバイクショップが一般に市販されているカスタムパーツを使ってカスタムし、それでいて全日本ロードレースに肉薄するタイムを刻む。旧車で最新モデルに勝つ、といった夢を実現させているのが、このテイスト・オブ・ツクバという舞台なのだ。
そしてその高いレベルを目標に全国で腕を磨き、新たな挑戦者が現れる…、といった具合に相乗効果も働いていて、おかげで良質なレースが見られるというわけだ。
ただ、2019年末から世界的に猛威を振りまいている新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、2020年5月は開催が中止に…。5月末には政府による緊急事態宣言が解除されたものの、それ以後も大規模イベントは軒並み中止となるか、三密を防ぎつつ徹底した感染拡大防止措置が求められているのが実態だ。そこでおそらく関係者も対策に苦慮したとは思われるが、11月7日(土)・8日(日)は両日とも、テイスト・オブ・ツクバ史上初めて、無観客開催を決定したのだった。
閑散とした雰囲気はなく参加者たちの熱意にあふれる
今回、筆者は都合につき7日(土)しか筑波サーキットに滞在できなかったのでレース両日のようすを知ることはできていない。ただ、土曜日にしても、当初は関連イベントがすべて中止となっていることもあり、もっと閑散とした雰囲気をイメージしていたものだが、数こそ少なくなったものの各関係メーカー/ショップのブース出展もあり、華やいだイメージが損なわれることはなかったと結論付けていいだろう。また、レース後に参加者などに話を聞いたところだと、日曜日はオーディエンスが多く、もちろん通常の観客動員時には及ばないものの盛況なようすだったという。
“旧車で新型に勝つ”という夢が現実の姿として見られる
その華やいだ会場を盛り上げたのは、もちろん参加者たちの熱い戦いだ。今回はとくにハーキュリーズ/スーパーモンスターエヴォリューションで、パワー的に不利なスーパーモンスターエヴォリューションクラス参戦のサンクチュアリー本店レーシング・ZレーサーⅢ(オリジナルのRCM USA社製A16フレーム採用+空冷Zエンジン)がポールポジションを獲得! 同車は2周目にトラブルが発生してリタイアとなったが、今まで中盤以降に埋没することが多く、混走する意義があるのか疑問もあった空冷車が水冷車との混走でもトップを走れる可能性を示唆できたのは、最初にも触れたような“旧車で最新モデルに勝つ”を体現する夢のようなもの。今後のスーパーモンスターエヴォリューションクラスの動向、さらにはモンスタークラスなど空冷クラスのさらなる進化にも期待したいところだ。
旧車で新型に勝つ、という意味では、今やハーキュリーズクラスにはNinja H2Rという二輪史上最強レベルの最新モデルが参戦しているものの、Ninja H2Rが常勝というわけではない。今なおハーキュリーズの頂上付近にはGPZ900R、GPZ1000RX、ZRX1100といったマシンが立ち並ぶ。ハーキュリーズもまた、カスタムの可能性、そして夢を見させてくれるステージでもある。だからこそ非常に注目を集めるクラスであり続けているのだ。
トップクラスの走りは別格。その違いは肌で感じてもらいたい
今回は前述しているように無観客試合となり、レースのようすはYouTubeなどで配信、ブース出展は大幅に縮小、関連イベントもすべて中止とはなったものの、レースとしての魅力は色あせるわけではなかったはずだ。今回は参加を見送った関東以西のライダーたちの復帰にも期待したいし、できればこの迫力を生観戦して体感いただきたい。空冷Zや70〜80年代車がストリートとはまるで異なる速度で駆け抜けていくときに感じる凄味は、なかなか動画や写真では伝わりにくいからだ。
来年がどうなるかは率直なところ不明だが、新型コロナウイルス感染症が終息し、無事に開催でき、参加者も来場者も笑顔で来場できることを切に願いたい。
四ッ井 和彰
元・本誌副編集長。バイク業界歴は10数年。現地取材、撮影、原稿執筆まで一貫して一人で行なうことが多いワンマンアーミー。現在はwebカスタムピープルなどクレタ運営のバイク系ウェブサイト4誌分の記事製作を担当中