プロフェッショナルカスタムマシン

プロの製作したカスタムマシンは、市販化されたパーツをただ取り付けるだけではない。取り付けたパーツの性能をフルに発揮できるようにセッティングしたり、細かいフィッティングにもこだわっていて、それがひいてはマシンとしての完成度の高さに結び付いているのだ。その実例をここでは紹介する。

カワサキ
GPZ900R by パワービルダー

今やN/A200ps・TOT57秒台に到達したGPZ900Rの究極進化形

GPZ900R by パワービルダー

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テイスト・オブ・ツクバ(以下、TOTと略)の顔役として必ず紹介されているマシンの筆頭格、それがパワービルダーのGPZ900Rだ。今や自然吸気で200psに到達する最高出力、筑波サーキットを57秒台でラップする卓越した走行性能は、GPZカスタムの究極進化形と呼ぶにふさわしい実力を備えている。そしてなお、さらなる速さを追求し続けている一台だ。

今やニンジャH2Rという最高馬力326psを発揮する怪物が生息するTOTハーキュリーズクラス。さらには最新スーパースポーツモデルのパワーユニットをそっくり流用したマシンも登場するなか、今や200psという数値自体は特別な意味は持たないのかもしれない。しかし、ZRX1200Rベースのエンジンを自然吸気で200psまで到達させたという事実には驚愕することだろう。それも一発勝負で、たとえばサーキットを20周するごとにオーバーホールが必須になるような特別な加工だとか、繊細な調整が必要なチューニングがほどこされているわけではない。使用しているパーツ類はいわゆる市販品ばかりであり、チューニングもセオリーに従った内容で作り上げられている。耐久性を無視するどころか安全性・信頼性重視の内容でもある。

GPZ900R by パワービルダー

もちろん、同じパーツを使用すればこのマシンと同じパワーが出るわけではない。通常、ZRX1200Rエンジンのチューニングはビッグボア化しても180ps程度が頭打ちとされている。実際問題としてパワービルダー・針替伸明代表も一時は180ps付近でパワーが頭打ちになっていたこともあるそうだ。そこでチューニングの基本に立ち戻り、パワーが生じる理由から理詰めで考え抜き、導き出された理由からついに200psに到達するパワーを引き出せたのだから、エンジンチューニングで名を馳せたチューナーの面目躍如といえるだろう。

そして、そのパワーを活かすための車体作りにも力が注がれている。これは、たとえば「フロントフォークをオーリンズ製倒立タイプにする」というような、個別の部品のグレードの話ではない。要は、どうすれば路面に適切な力をロスなく伝達できて、タイヤの性能をフルに引き出し、かつ車体姿勢を安定させることができるのか、という問題だ。そこで近年ではAIMのデータロガーを導入し、その研究を進めている。

データロガーで収集できるデータは多種多様だ。GPSによるサーキットでの位置取りとスピードをはじめ、前後ショックのストローク量、ブレーキ圧、スロットルポジション、空燃比などをモニタリングすることで、走行中に何が起こっているのかを視覚的にも把握できる点は大きいと針替代表は話す。

「とくにサスペンション関係での話だと、コーナー進入時にフロントフォークがどのくらいストロークして、どのくらいリヤショックが伸びているのか。その逆にコーナーの立ち上がりでリヤショックはどのくらいストロークし、そのストロークするスピードはどれだけなのか。この2点が重要になります。
ショックアブソーバは縮んでから伸びる一連の動きのなかでのストローク量とストロークスピードが重要です。たとえばバネレート11㎏/㎜のスプリングにプリロードをあまりかけない状態と、バネレート10㎏/㎜のスプリングにプリロードをかなりかけた状態とを比較してみて、コーナー立ち上がりでのアンチスクワットがどう変わるのかを確認してたり、そこから導き出されるリンク比を確認しています。
これらは今までなら経験や知識に基づいたデータ、あるいはライダーの感覚から導き出していたわけですが、ショックのストローク量をリアルタイムで検知・可視化できることで理想的な状態を導き出しやすくなっています。
マシンの構成自体は2017年ごろから大きくは変わらず、近年ではSTMのスリッパークラッチを導入した程度ですが、サスペンション以外にもさまざまなデータが可視化されたことでタイムは年々短縮できていますし、2019年に達成した57秒843というタイムにつながっています」

1998年に初めて同社がTOTに参戦してから早くも23年という月日が流れた。その間には多くの失敗も負けも経験している。それでもなお先に進むべく研究を続け、今もまだ進化を続けようとしている。5月9日(日)に開催されるTOTハーキュリーズクラス決勝で目指すはクラス優勝にとどまらず、57秒台前半、さらにはその先へ。パワービルダーの挑戦は続く。

カスタムポイント

GPZ900R by パワービルダー エンジン

自然吸気で最高時200psを発揮する、TOT屈指の存在であるこのマシン。ZRX1200RをベースにJE製ピストンとシリンダーキットで1,224㏄まで排気量を拡大し、キャリロ製コンロッドとヨシムラST-1カムシャフトを採用することでその数値を達成する。最適な動きを導き出すため、各部のフリクションを徹底的に除こうと重量合わせを徹底した結果の数値であり、特定の数値をクリアするためのチューニングではない。また、特殊な加工もほどこしたわけでもないそうだ。


カスタムパーツギャラリー

問い合わせパワービルダー
住所茨城県坂東市神田山1380-4
電話番号0297-21-5580
Webサイトhttps://power-builder.biz/
パワービルダー 店舗外観



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