スイングアームで不動の高評価を築き上げているウィリー。また、近年はクオリティの高いビレットパーツも人気。宮崎県の小さなバイクショップが、なぜこれほどのビッグネームのパーツメーカーとなりえたのか? そのモノ作りへのこだわりを探る。
スイングアームはなぜウィリーなのか?
「ウィリー製でなければ、スイングアームを変える意味がない」
これは、あるチューナーの言葉。アフターパーツのスイングアームの最高峰として、一般ライダーからの絶大な支持はもとより、プロショップからも高い評価を得ているウィリー。工業製品として極めて高いレベルにある同社のスイングアームだが、その製作工程はほぼハンドメイドだ。
ウィリーのスイングアームは、同社を営む富永父子の手により生み出される。代表の保光氏が曲げや溶接といった加工を、息子の保隆氏がビレットパーツの製作を担当している。ファクトリーの規模はショップレベルといえる。にも関わらず、製品のクオリティと精度の高さは、巨大企業の製品を凌駕する。その、ウィリーのモノ作りのルーツは保光氏の青年時代にある。
ホンダの社員としてメカニックの腕を磨きつつ、モトクロスライダーとして活躍していた保光氏。レース活動を通じ、RSC(ホンダのレース部門・HRCの前身)ともつながりがあった。当時、モトクロスマシンはエンジンパワーこそあったが、車体に難がありフレーム改造が必須。保光氏はRSCのメカニックに教えをこい、金属加工の技術を学んだ。
「アルミスイングアームを作っている職人に、どう作るんですか?と聞いてみました。アルミ素材に赤色鉛筆を塗ってあぶる、色が変わった時が曲げどきと教わったりしました」
ときは1970年代。ホンダのレース部門とはいえ、今ほど高い技術があったわけではない。その代わりに、若さとバイクに対する熱い思いにあふれていた。そんな日々を送るなか、製作中のモリワキ・ゼロのフレームを見せてもらうという機会があった。
「自分もいつかこんなバイクを作りたいと思いました。スイングアームを作り出したのは、このときの経験が影響しています」
独立してウィリーを創業後にパーツ開発に着手
ホンダから独立して、バイクショップのウィリーをスタートさせた保光氏は、ほどなくスイングアームの製作を開始。まっすぐ走らないようなバイクが、ウィリーのスイングアームを装着すると、ピタリと安定した。ビッグバイクブームの潮流にも乗り、同社のスイングアームは評判を集めて現在へと至る。
ウィリーのスイングアームは、一貫してアルミ押し出しパイプを主な素材として使用している。だが、現代のスーパースポーツのスイングアームはプレスやキャストといった製法が主流。押し出しパイプを使ったスイングアームは旧い設計といえなくもない。だが、パイプを使い続けるのには理由がある。
「プレスとキャスト、押し出しパイプは、それぞれに一長一短があります。スイングアームのスペックはフレームとパッケージで設定すべきものだと思います。従来からあるフレーム、とくに鉄フレームは車体自体のしなりが大きいので、剛性が高い押し出しパイプのリバウンド特性がマッチすると考えています。そのため、弊社のスイングアームはすべて、鉄フレーム採用モデルに対応したモノとなっています」
カスタムユーザーの多い、ネイキッドで、ウィリーのスイングアームが高い評価を得ているのは、こうした理論的な裏付けにも支えられているというわけだ。
なお、ウィリーのスイングアームは、入手困難なプレミアパーツ。ハンドメイドで作られているため、どうしても生産量に限りがあるためだ。また、一般ライダーへの直販は行なっていない。ウィリー製パーツの入手は全国のショップを通じて行なう。スイングアームの仕様は、オーダー時に設定できるようになっている。
スイングアームの構造は”目の字”断面
ウィリーのスイングアームは”ビッグ目の字”と”五角目の字”の2タイプのパイプが選択可能。サイズの大きいビッグ目の字のほうが、より高剛性ではあるが、一般ライダーがストリートで使用するのであれば、五角目の字であっても十分な剛性が確保されているので、好みで選択して問題はないとのこと。いずれにせよ、強度を含めた信頼性には絶対の自信を持つ製品である。
高い精度を誇る技術で製作
ウィリーのスイングアームは、1本1本ハンドメイドで作られる。金属加工であるから工作機械は使用しているが、仮に同じ道具をそろえたとしてもウィリーと同等のスイングアームが作れるかは疑問だ。その理由は、製造工程のすべてに保光氏が長年かけてつちかってきたノウハウが注ぎ込まれているからだ。多くの工程が手作業であることを考えると、その高精度は驚異的なレベルにある。これぞ、まさに職人技だ。