まだカウルがフェアリングと呼ばれていた1970年からバイク用の外装パーツを手がけていたモトコ。そのファーストモデルとして製作されたカウルは、どのようなこだわりを持って商品化されたのだろうか?
何度もテストを繰り返して防風性と操安性を追求
かつてヤマハの販売店で車両を販売していたという元モトコ代表の本橋明泰氏が、デザイナーの長島英彦氏の協力のもとに1970年に商品化したカウルが、ここで紹介するMF-1である。開発に着手したキッカケは本橋氏いわく「当時メジャーだった垂れ付き風防が嫌いだったから」。そこで、垂れ付き風防とはまったく異なる形のカウルを考えてほしいと長島氏に依頼。そのデザインをもとに原型を製作することになった。
本橋氏は若いころに世界中のレースに参戦していたヤマハ第一期GPライダーだっただけに、見た目だけでなく性能面についてもこだわっている。とくにこだわったのは、あらゆるステージで安心して走るための、防風性と操安性のバランスだったという。
「まずハンドルマウントのカウルで誰にでも簡単にボルトオンで装着できることが大前提だったのですが、そうすることでハンドルが風の影響を受けやすくなるし、防風性をよくしようとすると操安性が悪くなったりします。スクリーンの長さに関しても、あまり長くすると操安性が悪くなるし、短くすると防風性が悪くなる。バランス的にちょうどいい長さは、ヘルメットに風が当たるぐらいなのですが、そこに行き着くまでに何度も実走テストを繰り返しました。ちなみに、スクリーンの先端をカールさせて風の流れを変えるようにしたのはウチが最初だったと思います。その当時は風洞実験なんてできる場所はどこにもなかったので、スクリーンに水をかけてその流れ方を見て空気の流れを予想したり、知恵を絞っていろいろやってましたね」
社外カウルの新時代を切り拓いたモトコ
国内メーカーの社外カウルといえば垂れ付き風防ぐらいしかなかった1970年に、まったく新しい形のFRPカウルを市場に投入することで注目を集めたモトコ。デザイナーの長島英彦氏が手がけた秀逸なデザインと、元GPライダーの本橋明泰氏が代表を務めるショップの製品という安心感もあり、初期モデルのMF-1は生産が追い付かなくなるほど大ヒットした。その後継モデルとして89年にリリースしたMF-2も、ツーリングライダーを中心に長く愛され続けている。
MF-1については時代が時代だっただけに、すべての作業を手で行なったため、厳密にいえば左右対称にはなっていないという。木材やアルミ材を用いて作ったベースに粘土を盛り、それをどんどん削っていくという手づくり感あふれる方法で原型を製作。左右対称になっているかどうかは、その粘土に刺した針の深さでチェックしていたそうだ。
こうして製作された原型をオス型として、生産型となるメス型を製作すれば、最終的に製品が左右対称にならないのは容易に想像がつくことだろう。1989年に後期モデルのMF-2を商品化する際には、原型の製作をホワイトハウスに依頼したそうだが、80年代末にもなると素材のグラスファイバー自体も高性能なモノに進化。収縮率も飛躍的に小さくなっていたため、左右対称にかなり近い原型を作れるようになったとのことだ。
爆発的なヒット作となった初代MF-1フェアリング
当時製作された同社のカタログにも見られるように、70年代はカウルのことをフェアリングと呼んでいた。そのころはちょうど国内の高速道路がいよいよ全線開通という時期だったこともあり、初期モデルのMF-1はツーリングライダーを中心に飛ぶように売れていったという。同社では販売開始当初からカウル類はすべて純正色に塗装したモノを販売していたため、しばらくは完全に生産が間に合わないほどの注文が続いたそうだ。
ツーリング派にも人気だった積載能力にすぐれたシート
カウルに比べればやや歴史は浅いものの、モトコではシングルシートも30年以上前から作り続けている。純正のデザインを巧みに取り入れたスタイルのよさと積載能力の高さから、こちらも発売当時はカウル同様、ツーリングライダーを中心に人気を集めていたという。なお、残念ながら現在はほとんどの車種がカタログ落ちとなっており、SRとBMWの一部の車種のみラインナップしているという。しかし、当時の人気モデルだったSR用についてはいまだに問い合わせが入ることもあるそうだ。
抜群の防風効果はそのままにより洗練されたデザインに
1970年から長く生産し続けてきたMF-1の後継モデルとして開発され、1989年にリリースされたのがMF-2。ハンドルマウントや大型スクリーンの採用など、機能的な共通点は多いようだが、外観は大幅にイメージチェンジ。角張った部分が多かったMF-1とは対照的に、丸みを帯びたデザインを踏襲している。なお、MF-1はMF-2に比べて型自体の精度が出ていなかったため、仮に同じファイバーを使っても、製品自体の精度はMF-1のほうが劣るという。しかし、そのクラシカルなルックスが魅力なのかMF-1を求める声も多いそうだ
※本記事はカスタムピープル153号(2016年3月号)掲載記事を再編集したものとなります