ブレーキキャリパーはいくら高性能な製品を選んでも、メンテナンス不足だと本来のパフォーマンスを発揮できない。それどころか最悪の場合は重大事故につながる可能性もあるのだ。ここでは、そうならないための簡単なメンテナンスを紹介しよう。
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キャリパー分解といった重整備を避けるためにも定期的な洗浄を行ないたい
ブレーキキャリパーのメンテナンスというと、ブリッジボルトを抜いて本体を分解したり、ピストンツールを用いてキャリパーピストンを抜いたりするオーバーホール的な作業を連想する人も多いだろう。
しかし、ブレーキキャリパーは法令で最重要保安部品と位置付けられたパーツ。個人でキャリパー本体の分解作業を行なうのは、とくにプロショップからすると止めてほしいポイントだという話も聞いたことがある。そこまでの分解整備をせざるを得なくなる事態を避けるうえでも、安定して性能を発揮させるためにも、定期的なメンテナンスを行なっておきたい。
そのメンテナンスのポイントは、汚れを落とすことと水分を残さないこと。
キャリパーは汚れが大敵だ。ブレーキダストやホコリなどの汚れを長く放置すると、それがキャリパーピストンに固着してピストンの動きを阻害する要因になってしまうからだ。そして汚れがサビや腐食を誘発して、いざ悪化してから洗い落とそうとしても、ピストン表面が侵食されて凹んでいることもあるのだ。こうなるとキャリパーピストンとオイルシールの間にすき間ができてしまい、そこからブレーキフルードが漏れ出してしまうことになる。フルードの漏れはブレーキシステム内の圧力が逃げてしまうことにもなるので、ブレーキが効かなくなったり、あるいはそのフルードが周辺パーツの塗装を侵してしまうことにもなりかねない。そういた事態を防ぐには、キャリパー全体をマメに洗って汚れを落とす必要があるというわけだ。
その際に汚れを落としても水分が残っていればサビを誘発させてしまうことになるので、清掃後には徹底的に水分を拭き取るかエアコンプレッサーがあればエアで水滴を飛ばしたい。そしてこれは普段から意識してやったほうがいい作業だ。とくに雨のなかを走ったあとにやっておかないとサビを誘発させてしまうので、清掃時に限らず、水分が付着する可能性があるのならせめて拭き掃除をする癖をつけたい。
命を司るパーツだけにブレーキの取り付けには人一倍注意が必要だ
整備作業時にはブレーキキャリパーからパッドを着脱することになるが、その際に必要となるパッドピンの抜き差しは、メンテナンス作業でもっとも重要な部分でもある。鳴き止めのスプリングが前後逆に付けてしまう程度ならまだしも、作業終了後にこのパッドピンをしっかりと戻して固定しないと、最悪の場合、ブレーキパッドの脱落を招いてしまうからだ。確認のためキチンと固定されているかどうかは、できるならプロショップで確認してもらう慎重さがあってもいいほどだ。
同じ理由で作業時に一度取り外したブレーキキャリパー本体をフロントフォークに装着する際には、すべてのボルトをしっかりと規定トルクで締結する必要がある。もしトルクレンチを持っていないなら、行きつけのプロショップで確認すべきポイントだ。
この作業に不安があるのなら、プロショップにブレーキ清掃を依頼しよう。ブレーキとは不安を感じながらDIYで作業するには非常にリスクが高いパートであり、万一の場合には自分の命はおろか、周囲の通行車両や通行人を巻き込むことにもなりかねないからだ。重要部品なので“バイクに詳しい知人・友人”に依頼するのも厳禁。キチンと整備士資格を有する整備士がいる認証工場で見てもらおう。
ブレーキフルードは消耗品なので定期的に交換したい
ブレーキキャリパーをメンテナンスする際にはエア抜き作業や、ブレーキフルードの交換作業が必要なこともある。以下ではエア抜きのみを紹介するが、ブレーキフルードが汚れていれば要交換だ。また、見た目には汚れていなくても年数や距離を経たモノは成分が劣化するため、きちんとエア抜きしてもブレーキのタッチが悪いようならすぐに交換したほうがいい。
余談だが、サーキットをメインで走っている人のなかには沸点の高いレース用ブレーキフルードを使っている人もいるだろう。レース用は非常に吸水性がよく、長く放置すると結露などで水分が混入することもある。ハードブレーキングを繰り返していくうちにその水分が熱により膨張すると、エアを噛んだような状態になるため、走行前には新品に交換するのが無難だ。
ブレーキキャリパーのメンテナンス手順
取り外し
メンテナンス作業はフロントフォークから取り外したブレーキキャリパーを分解することから始まる。分解時にはパッドピンを引き抜き、ブレーキキャリパー本体からブレーキパッドを取り出すことになるのだが、それ以上の分解作業を個人で行なうのは原則NGだ。なお、分解時にはブレーキパッドが偏摩耗していないかを確認することも忘れずに。
洗浄
作業自体は簡単だが、もっとも根気のいる作業が洗浄作業だ。中性洗剤を塗布した歯ブラシで汚れを落とし、落ちた汚れを水で洗い流す。ここでもっとも重視したいのはピストン周辺の汚れ。完全にキレイになるまでこの作業を何度も繰り返すことになるのだが、放置していればいるだけ汚れが固着していることがめずらしくない。しかも短気を起こして力任せに汚れを落とそうとするとピストン表面をキズ付けることもあり得るので、できるだけ時間に余裕を持たせて作業を進めよう。
装着
ブレーキキャリパーを完全に車体から本体を切り離すことはないものの、フロントフォークから着脱する作業は必要だ。取り外す際には強い力で締結されているため力は必要になるものの、特別な工具類は不要。しかし取り付け時にはトルクレンチが必須だ。この取り付け時だがブレーキキャリパーは強力な応力がかかるパーツのため、装着方法はほかのパーツと若干異なる。ホイールの回転方向に本体を押し付けながらボルトを締め込んでいくとガタが生じにくくなることを念頭に締結作業を進めよう。
エア抜き
エア抜き作業を簡単にまとめると以下の手順となる。
- キャリパー側のブリーダーボルトを緩めた状態でブレーキレバーを数回にぎる
- レバーを握ったままブリーダーボルトを締め込む
- ブリーダーボルトを締めた状態でブレーキレバーを数回握る
- エアが完全に抜けていなかったら1へ戻る
エアが抜けていないかどうか自分では判断しにくいときはプロに相談しよう。エア抜きできていなければ走行中にブレーキが効かなくなる恐れがあるため、ショップに乗って行こうだなんて考えは厳禁だ。
メンテナンスのメリット
メンテナンスというと、もともとの性能を維持するうえで重要なのは当然のことなのだが「しなければならない」といった義務感から、少し後ろ向きな印象を持つ人もいるかもしれない。しかし、早い段階で異常を発見できることもメリットとして大きいポイント。
バイクとは意外と外側から目視しただけではわからないような劣化や破損が多い。とくにブレーキは外観から可動部となるピストンの状態を認識することが困難だ。むろん、キャリパーから露出したピストンの一部は視認できなくはないが、そこまで普段から見ている人は正直なところ少数派だろう。
トラブルは早期に発見すればするほど、そして早い対処ほど手間も費用も少なくてすむ。結局のところ純正キャリパーだろうと社外キャリパーだろうとメンテナンスは必須だし、純正ではなく高価なキャリパーだからこそ、トラブルを回避するうえでも、無駄な出費を減らすためにも、しっかりと確認・清掃をしていただきたい。