外装系カスタムの疑問
- 立ちゴケ対策としてスライダー装着が流行しているようですが効果は高いのでしょうか?
- ガード効果も期待できますが、あくまでスライダーとガードは別モノなので過信は禁物です
滑らせることで生還する可能性を少しでも引き上げる。それがスライダーの役割だ
現在、ディープなカスタムユーザー以外にも装着率が非常に高まっているパーツの一つがスライダーだ。バイクの転倒時に車体にキズが付かないようにという意図で装着されるケースも多いようだが、エンジンスライダーとしてよく知られるのは、コーン形状になったスライダーがエンジン脇やフレームからニョキッと飛び出ている姿だろう。どこに配置するかはメーカーそれぞれの意図があってのことだが、ガードではなく“スライダー”と呼ばれているのには理由がある。それ単体で転倒による衝撃を吸収したり、緩和しようとしているわけではないためだ。
では何のために存在するのか? これは発想の転換ともいえるが、従来のように教習車などで採用されるような頑強なガードで転倒時の衝撃を受け止めようとすれば、かなりの強度が必要になる。そしてその強度を得るためには必然的に大きく、重くなってしまう。また完全にエンジンや接触が予想されるポイントを覆うとなれば、やはり仕組みとして大がかりにならざるを得ない。それこそ教習車のような形になってしまうのだ。
そこで“受け止める”のではなく、転倒時に意図的にバイクを滑らせることで衝撃の力を“逃がす”と考えるようになったのがスライダー。そして路面と接触した状態で滑らせることで、バイクが転倒時に回転してしまわないようにとも考えられている。転倒時にバイクが前後左右に回転してしまい、タンクやシート、転倒した反対側のあれやこれやまで壊してしまうのを防ぐ、というわけだ。
つまり、スライダーとはそもそもの発想からして、転倒時にキズが付かないことを意図したパーツではない。ただ、車体を滑らせるうえでスライダーがバイクの最外縁になるよう配置されることが多い。その結果として、まず転倒時にスライダーが路面と接触することで、車体側が幸運にも路面などと接触しないですむことがある、というのが実態だ。
なお、衝撃を逃がすため車体を滑らせることを意図するわけだから、転倒時にバイクは路面を滑ってしまい、勢い余って反対側のガードレールや家屋、はたまた対向車に衝突するという二次被害が生じる可能性も否定できない。それでも転倒時にMotoGPなどでたまに見かけるような大クラッシュと化してしまうより、転倒後も帰宅できる可能性ははるかに高くなる。
そもそも、なぜ滑らせて車体を回転させないようにするのかというと、レース中の転倒時にもリタイヤすることなくピットまで戻れることを前提とするため。そういうレース用品としてスライダーはスタートしているので、完全にキズを防ぐことを意図したモノではないことを理解いただきたい。キズは防げなくとも、転倒時にはわずかでも安心を確保できるはずだ。
保護するにはマウント方式やスライダーの素材にも配慮しよう
市販されるスライダー類のほとんどは強度確保の面からか、ネジ径の大きいフレームとエンジンとの共締めネジを利用している。しかし、この構造だと転倒時にフレームやエンジンに衝撃を直接伝えかねない。激しく転倒してしまった際、外観的にはエンジンのカバーが少し削れただけだとしても、エンジン取り付けネジが衝撃で変形してしまったり、場合によっては取り付け部のフレームが凹んでしまうことすらあり得るのだ。場合によっては“こんなことならスライダーがないほうがマシだった”なんて事態すらあり得るのも現実である。
そこでメーカーによってはエンジンカバーに直接取り付けるスライダーを採用している。また現在のレースだと二次カバーとしてエンジンのクランクカバー全域を覆うことが求められているが、たとえばポッシュ製だとストリート用と割り切り、少ない面積で最重要ポイントのみに配置し、滑らせるようにしている、と過去にインタビュー記事で紹介したことがある。またジェラコンより滑りやすいアルミ材を使うなど、メーカーごとの着目点が異なるので、各社ごとに何をねらっているのかも注目していただきたい。
またメーカーによってはカードだけど一部あるいは全部に滑りやすい素材を用いてスライダー的な要素を持たせたモノも存在する。ユーザーからすれば両方の性能を兼任してくれたほうが安全性も高まるのだから、そういった製品に注目してみるのもいいだろう。
スライダー装着が有効なポイントとはどこか? それはバイクの外縁部分だ
最初にも触れたように、転倒時に路面と接触しやすいのはフロントフォークのアクスルシャフトと車体側面、ステップ、そしてスイングアーム(マフラーがあればマフラー)といった部位。つまりバイクの一番外側のパーツがまず被害を受けることになる。ゆえにスライダーを装着するのなら、これらの場所に近く、かつ各パーツが路面に触れるよりも外へ飛び出た形で取り付けるのが望ましい。
ちなみにもっとも無難、かつ効果的といえるのは車体側面。とくに並列4気筒車はクランクシャフトの延長線上がだいたいエンジンの最外縁部となり、バイクの車体でもっとも横に張り出した場所になりやすい。よってクランクケース部にエンジンガード、あるいはスライダーを装着すると効果が高くなるだろう。
近年だとアクスルシャフトのスライダーも多くのメーカーから製品化されている。先にも触れたようにフロントフォークのアクスルシャフト部分は転倒時に路面と接触しやすく、かつここが変形あるいは削れてしまうと、ホイール交換に重大な支障をきたすことになるためだ。そのため転倒時の保護としては、アクスルシャフト部へのスライダー追加は有効といえる。
ただ、取り付ける際には大きさに限度があることも知っておこう。市販品ならほぼ問題はないはずだが、カスタムすることで車体の全幅から片側10㎜以上(全幅では20㎜以上)超えてはいけないことにも注意いただきたい。全幅が20㎜以上異なると車検証の記載変更が必須になるし、記載変更をしないままだと違法改造と見なされることもあるからだ。
四ッ井 和彰
元・本誌副編集長。バイク業界歴は10数年。現地取材、撮影、原稿執筆まで一貫して一人で行なうことが多いワンマンアーミー。現在はwebカスタムピープルなどクレタ運営のバイク系ウェブサイト4誌分の記事製作を担当中