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フルエキゾーストマフラー(以下、マフラーと略)を交換するのはカスタムにおいて第一歩として捉えている人が多いはずだ。排気音や見た目が大幅に変わる社外マフラーに交換するのは、多くのユーザーにとってカスタム感を実感するにも、周囲にアピールするにも重要な要素であり続けている。
そこでマフラーを選ぶにあたってのポイントのうち、今回はストリート用とレース用との方向性の違いについて考えてみよう。
“レース用はストリート用より高出力型なので、あらゆる意味でストリート用よりもすぐれている”と思っている人も多いだろう。しかし、これは一部は正解と言える部分もあるが、じつは全部が正解とは限らないのだ。
さまざまな条件を満たす必要があるストリート用と単純にパワーを求めるレース用との違い
まず、現代の社外マフラーは国内メーカー製だと、ほとんどがストリート用として設定されている。そのストリート用とは高年式車用になればなるほど音量規制、排ガス規制、触媒使用を絶対の条件として、そのなかで純正状態を全域で上回る出力性能を確保しつつ、音量、排ガス、さらには良質な排気サウンドとなるよう、かなり厳しい条件の上で作られているのが実態だ。
しかし、その制限があるゆえに、製品単体としては非常によくできたモノが多いのだという。つまり作りがかなり込み入ったモノなのだ。そして、そういった複数の条件を満たす前提で作り込んでいるがゆえに、マフラーをカスタムするとパーツメーカーの意図をすぐさま外すことにつながる。そのためサイレンサーをストレート構造にしたり、大きくしたり、短くしたり、触媒を外したりすると、出力特性はかなり大きく変わることになる。
一方のレース用は、レース音量さえクリアすれば、あとは性能を追求するだけのモノとなる。性能とは最高出力であったり最大トルクであったり、さらにはパワーカーブといった要素も含まれるが、制約が少ないのだから作りやすいともいえるし、排ガス規制に適合させなくてもいいので、パーツメーカーとしてはECUとのマッチングを最重視していけばストリート用と比較して簡単に考えやすい、という話を聞いたこともある。
この点から「やっぱりな。レース用のほうが単純にパワーを出しやすいのだから結果的にも高性能マフラーなんだろう」と言う人もいるだろう。しかし、排ガスや音量を考慮しつつ性能をアップさせるストリート用と、排ガスや音量を半ば無視しつつ性能をアップさせるレース用とでは、いずれが高性能かと言われれば、さまざまな要素をクリアするよう多機能化したストリート用のほうがマフラーとしての性能が高い、ともいえるのだ。
マフラーは開発のベクトルの違いで得られる結果が異なることも
レース用、ストリート用ともに、仮に同一車種用だとしても、それぞれの開発意図によって得られる結果のベクトルが異なることもある。ストリート用は基本的に全域でのパワーアップと、かつ低中回転域からのピックアップのよさなどを強く意識するメーカーが多い。ピークパワーこそレース用には及ばないことがあっても、低中回転域での使いやすさではストリート用に分があることは多々あり得るわけだ。
これは逆のこともいえる。つまりストリート用マフラーでサーキット走行を行なえば、低中回転域から立ち上がりがよくなっても、高回転域での伸びやパワーフィールがレース用マフラー装着時より劣ると感じることもあり得る話なのだ。
日本のカスタムシーンにおいて“レーシング”とは特別な響きを持つが、レーシングだったらつねにあらゆる環境でも最高にして最良の状態が得られるとは限らない。レース用はレースで最良の結果を得られるように、ストリート用は街中を快適に走れるようにと意図して製作されているモノだ。その製作意図に沿い、適材適所を意識すれば“ヤバい、何か思っていたのと違う…”といったミスマッチが起こることもなくなるだろう。
なお、ここでは仮定の話としてレース用マフラーをストリートで使用したら…、という話をしているが、そもそもの大前提としてレース用マフラーはストリートで使用不可。違法な状態ではカスタムを楽しむどころではなくなる。くれぐれもご注意を。

四ッ井 和彰
元・本誌副編集長。バイク業界歴は10数年。現地取材、撮影、原稿執筆まで一貫して一人で行なうことが多いワンマンアーミー。現在はwebカスタムピープルなどクレタ運営のバイク系ウェブサイト4誌分の記事製作を担当中